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大阪高等裁判所 平成2年(ネ)161号 判決

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

一  被控訴人の請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。そして、成立について争いがない甲第一号証及び弁論の全趣旨によると、被控訴人の請求原因2の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  そこで、控訴人主張の消滅時効の抗弁について検討する。

被控訴人が昭和五七年一〇月二一日に控訴人所有の不動産に対する仮差押決定(弁論の全趣旨により、本件債権を被保全権利としたものと認められる。)を得てその執行をしたこと、控訴人において仮差押解放金を供託したため、昭和五八年一二月一日に右仮差押決定の執行が取り消されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

控訴人は、右のとおり仮差押決定の執行が取り消されたから、民法一五四条の規定によつて、本件仮差押による時効中断の効力は将来に向かつて失われた旨主張する。

民法一五四条は仮差押などが権利者の請求により又は法律の規定に従わなかつたために取り消されたときに時効中断の効力を生じない旨規定しているが、右仮差押の取り消しには仮差押債務者が仮差押決定に記載された仮差押解放金を供託したことにより仮差押決定の執行が取り消された場合は含まれないと解すベきである。すなわち、民法の右規定は、権利者が仮差押決定による権利を自ら放棄した場合又は債務者の異議(民訴法七四四条)、本案の起訴命令の期間の徒過(同法七四六条)、事情変更(同法七四七条)などの理由により仮差押決定が違法として取り消された場合、及び仮差押の執行が違法等でその執行が取り消された場合には、仮差押決定の執行による時効中断の効力を認めるのは不当であるから、その効力を認めないことにしたものであるが、仮差押債務者が仮差押解放金を供託したために仮差押決定の執行が取り消された場合には、右時効中断の効力の存続を不当とすベき理由は存しないからである。けだし、仮差押解放金が供託された場合、当該仮差押決定に定める具体的執行(本件においては控訴人所有の不動産に対する仮差押の執行)は取り消されるが、仮差押執行の効力は債務者が供託した仮差押解放金の返還(取り戻し)請求権の上に存続するものと解すベきであるからである。したがつて、民法一四七条二号による仮差押によつて生じた時効中断の効力はなお存続するものというベきである。

よつて、控訴人主張の消滅時効の抗弁は失当である。

三  以上により、被控訴人の本件請求は理由があるからこれを認容すベきであり、右と同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大久保敏雄 裁判官 妹尾圭策 裁判官 中野信也)

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